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第38回 映画「おくりびと」と日本人の死生観
发布者:ge  日期:2009-12-09  点击:1440

2月22日、米国のアカデミー賞外国語映画賞の発表が行われ、日本映画「おくりびと」が受賞しました。日本独特の葬式の習慣を描いたこの映画が、アメリカ人にも認められ、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したことは、死者の弔い方についての日本の習慣がある程度普遍的な共感と理解を得ることができたのではないかということで、日本でも大変大きなニュースとして報道されました。私もこの映画を見たので、この映画を紹介しながら、日本人の死生観について論じたいと思います。

1. 映画「おくりびと」について

「おくりびと」というのは、「死んだ人を『あの世』(死後の世界)に送るひと」という意味です。必ずしも一般的に使われる日本語ではなく、この映画によって知られるようになった表現です。この映画の英語名は「Departures」となっています。

この映画(滝田洋二郎監督。2008年完成)は、日本で遺体を棺に収める仕事をする男性(「納棺師」とよばれます)を描いたもので、日本でも異色の映画といえます。2008年9月に日本で公開されてから、12月までで興行収入が30億円とヒットとなっているそうです。(お葬式関連では、伊丹十三監督の「お葬式」(1984年)という大変面白い映画もありました。)

米国アカデミー賞の外国語映画賞が独立部門として創設されたのは1956年ですが、それ以後、日本の映画がこの賞を受賞するのは今回が初めてです。(有名な中国人監督アン・リー氏は、2000年「グリーン・デスティニー」で外国語映画賞を受賞しています。)

「おくりびと」は、日本の映画の賞である「日本アカデミー賞」でも10部門で受賞しており、またモントリオール世界映画祭でもグランプリを受賞しています。米アカデミー賞を受賞する前から、既に、米国、カナダ、フランス、オーストラリアなど36カ国での劇場公開が決まっていたそうです(2月24日付日本経済新聞報道)。

映画の主人公は元チェロ奏者で、オーケストラが解散したため、ふるさとの山形県に帰り、遺体を棺に収める仕事に就きます。いろいろ戸惑いながら仕事をしながら、だんだんと尊敬の念をもって死者を送り出すことを覚え、この仕事の意義を理解していく様子が映画では描かれています。

主人公を演じた俳優の本木雅弘氏は、15年前にインドのガンジス川で死体が流れているのを見てから死生観について深く考えるようになったということです。そして、納棺師の青木新門氏が書いた本「納棺夫日記」を読んで、納棺を題材に、日本人にとっての死について正面から取り上げた映画を作りたいと考えたそうです。

米国の映画業界紙『ハリウッド・リポーター』は、この映画を「死に対する畏敬の念を通して生を称える感動作」と評したそうです。日本の映画評論家の品田雄吉氏は、「日本のしきたりや日本人の気持ちを描いた作品が、世界に認められたのは意義深い。」と述べています(2月23日付朝日新聞報道)。

米ロサンゼルス在住のアニメーション作家のラウル・ガルシア氏は、「ここ何年かの間に私が見た中で最高の映画だ。日本にこんな儀式があるとは全く知らなかったが、愛する者を送る気持ちは普遍的でよくわかった」と述べています(2月24日付毎日新聞報道)。

米国人がこの映画を高く評価した背景には、「9.11」以降の状況も関係あるとの評論も出ています。

(なお、この映画の音楽は、中国でも有名な久石譲氏が担当しています。)

2. 「納棺師」とは何か?

日本では普通は人が死ぬと、遺族は葬儀屋にお通夜、葬式、火葬場の手配などの準備を依頼します。葬儀屋は多種多様な仕事をこなしますが、仕事の一つは、遺体を清め、「旅立ち」の衣装を着せ、男性は髭を剃り、女性は化粧を施して生前のまなざしをよみがえらせることもあります。この仕事を特に取り出して専門に行うのが「納棺師」の仕事です。納棺の前に一時間ほどかけて遺族とともに儀式を行うそうです。

日本で「納棺師」とよばれる専門家は必ずしも多くはないようです。札幌市に本社があり、全国展開している納棺専門業者の方が日本の新聞のインタビューで以下を答えています。(2月25日付東京新聞)

―納棺の専門の会社をつくったのは1969年。きっかけとなったのは、1954年に青森と函館を結ぶ連絡船が台風のために沈み、1400人以上が亡くなった際、損傷のはげしい遺体を清めて遺族に引き渡すのを手伝ったのがきっかけとなった。

―同社は、日本でおそらく唯一全国展開している会社である。約130名の納棺師がいる。一人当たり年間数百人の遺体に向かう。

3. 日本人の死生観

この映画の原作を書いた青木新門氏は、「『生と死はつながっている』という死生観と命の尊さや人とのつながりが描かれた作品自体のおもしろさが絶妙なバランスを生んだ」と述べています。そして完成したこの映画では、「単に死体の処理ではなく、亡き人を送り出す厳粛で重みのある姿勢」が示されたと評価されています(2月24日付日本経済新聞)。

この映画から感じられるメッセージは、まず生きている人はいずれ死ぬ、ということです。また遺体を扱う仕事に対する偏見に対しては、死者を敬意をもって送り出すことの意味を対峙させています。また死に対して、家族のつながりを対峙させています。

「もともと遺体を生前の姿に修復する技術エンバーミングは、アメリカで発達したものだ」(2月25日付東京新聞)ということですが、日本では特に遺体を丁寧に扱い、死者への敬意を表します。日本では、日本語では「死体」といえば物体を指す表現ですが、「ご遺体」に対しては、いわば人格を有しているものとして、敬意と配慮をもって扱わないといけないとされます。

青木新門氏は、『生と死はつながっている』と述べています。映画の中でも、死を通過する「門」としてとらえている表現が出てきます。日本人の死生観の特徴は、死後の世界(あの世)があると信じる人が多いことです。中国でも死者のために紙銭を焼いたりすることは聞いています。中国人の友人に聞くと、中国人は死後の世界を信じていないと言われます。現代の中国人が死後の世界の存在を信じているのかいないのか、私にはよく分からないので、調査などがあれば是非教えて頂きたいと思います。

日本人に対して行われたあるアンケート調査で、「死後の世界(あの世)があると思いますか?」という問いに対して、「あると思う」と「ないと思う」と答えた人がともに29.5%、「あると思いたい」と答えた人が40%もあったそうです。しかも死後の世界の存在を信じるのは、年輩者には少なく、むしろ若い人に多いという傾向が見られたそうです。

また、「死者の霊(魂)(の存在)を信じますか?」という問いに対しては、「信じる」と答えた人は54.0%、「信じない」は13.4%、「どちらとも言えない」は32.0%でした。

「生と死の世界は断絶か、それとも連環していると思いますか?」という問いに対しては、「断絶している」が17.4%なのに対して、「どこかで連環している」は64.6%、「わからない」が18.0%だったそうです。

(以上、立川昭二著『日本人の死生観』1998年、筑摩書房。以下の記述も同書より引用)。

哲学者の梅原猛氏は、仏教移入以前から持っていたと思われる原「あの世」観について、次のような説をたてているということです(『日本人の「あの世」観』)。

(1) あの世はこの世と全くアベコベの世界であるが、この世とあまり変わりない。

(2) 死ぬと魂は肉体を離れてあの世に行って神になり、先祖と一緒に暮らす。

(3) すべての生きるものには魂があり、死ねば魂は肉体を離れてあの世に行ける。(以下略)

立川氏は、以下のように述べています。

「(日本人にとっては、)生と死の世界ははっきり断絶しているのではなく、どこかで連環しているという考えに通ずる。」

「じつは『死生観』という語も、日本語独自のものである。生死という時、それは生と死をはっきり切り離すのではなく、生から死へ、死から生への連続的なつながりを考え、生と死の間にはっきりとした断絶を考えない。」

日本人の葬式のやり方、また死後、死者を弔うやり方はいろいろなものがあります。死んでから一週間後、四十九日、百ケ日、1年後、2年後(三回忌)(ここまでは中国の習慣です。それより後の法要は日本で追加されたそうです)、6年後(七回忌)、12年後(十三回忌)、16年後(十七回忌)、22年後(二十三回忌)、32年後(三十三回忌)、49年後(五十回忌)と遺族らが集まって弔います。お墓参りも、一年の間に何度も行きます(なくなった命日、お彼岸、お盆など。)これらの習慣は中国といろいろ異なると思いますが、それを理解するためには、日本人の死生観を理解する必要があると思います。

日本では大災害で被害を受け、身近な人を喪った人に対して、「心のケア」「癒し」ということが言われます。これは日本人の死生観を暗黙のうちに前提として行われるものであるのかもしれません。

「おくりびと」が米国のアカデミー賞外国映画賞を受賞したということは、死者を弔うための日本人の習慣や感性が、米国人から一定の共感を得たということだと思います。四川大地震の際に日本の救助隊が中国人のご遺体に敬礼をした写真が中国国内で配信され、中国人から大きな共感と反響を得たことも思い出されます。

この映画を見た在日中国人の友人は、感想として、以下を私に述べてくれました。

―納棺の儀式については、最初はすこし違和感があったが、亡くなった人に対する敬意を示すものとして美しいとも感じた。

―映画で共感できるところは、家族への愛を描いているところ。

―日本人の死生観に関してあまりよく知らなかったが、このような死者とお別れする納棺の儀式は必要ではないかと感じた。将来、同じような儀式をするビジネスが、中国でも誕生するかもしれない。

 (井出敬二 前在中国日本大使館広報文化センター所長)

  

「チャイナネット」2009年3月2日

 
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